平野屋のヨモギ大福

東濃の山間部加子母では、5月になるとそこここでヨモギ摘みをする人の姿を見る。

私がまだ、他所に住んでいた時、5月に加子母に帰るのが楽しみだった。

お店に寄ると必ずヨモギ大福があって、家に帰り着くのを待たずに車の中で食べた。

ヨモギの香りがフワッと口の中に広がる。

今回は、あんこは薪で炊くという昔ながらの作り方で、40年近くヨモギ大福を販売している平野屋さん、桂川益朗さん(87)と由美(よしみ)さん(81)を訪ねた。

作り始めてから今まで、皆に愛され続けている平野屋のヨモギ大福について、由美さんから話を聞くことが出来た。

  • 創業してからどのくらいになりますか?
  • 私が嫁に来てから60年くらい経つけど、その前から和菓子屋やってたのよ。
    六方焼っていって、ゴマを少し乗せてサイコロみたいに六ヶ所焼くのね、そんで六方焼って言ったの。まあ、懐かしい。それと、結婚式の時の鶴亀のお菓子や、羊羹ね。
  • ヨモギ大福を作るようになったきっかけは何かあったのですか?
  • 加子母と下呂の境いに産直が出来た時ね、手軽に買えて、大きな会社が作るような高級菓子なんかじゃなく、土臭い、ここら辺でしかない物を作って売ろまいって決めたのよ。
  • いいきっかけでしたね。
  • そうよ、まだ産直がテントだったかな…。

平野屋が作るヨモギ大福の一番の特徴はあんこを薪で炊くこと

  • 小豆はどこ産ですか?
  • 小豆は北海道の十勝産を使ってる。
    小豆が取れん年もあってね、すごく値が高騰した年もあったのよ。寒い年ね、小豆の値段が倍なんてもんじゃあなかったよ。
    他の所では中国産を使った所もあったけど、私は味を落としちゃいかんと思って、ずっと十勝産を使ったのよ。でもね、そのお蔭で今があると思ってるよ。
  • 小豆をわざわざ薪で炊くのはどうしてですか?
  • それしかやり方しらんのよ。ハッ、ハッ、ハッ。
    機械入れれば、いっくらっでん(いくらでも)出来るけど、昔からやってきてるんで、止められないのよ。
    この前、ブルータスという雑誌に載ったもんで、もう薪で炊くあんこ作りは止められん。これからも手間の掛かるあんこ炊きはやらなあかん!

  • 昔からの製法を残すって凄いことですよね。
  • そんな事はあんまり考えん。新しい事もようせんしね。ただ、お客さんに喜んでもらえたらと思って続けてきただけ。
  • 外に薪が積んでありますが、あんこを炊くのに使うんですか?
  • そう、楢材にこだわってね。
  • 楢材は火持ちがいいですね。
  • 加子母の森林組合から4mの長いのが丸太で来るのよ。それを皆で切って割って積み上げるのよ。それが結構面白いの。皆でやるからね。

  • あんこは毎日炊くのですか?
  • いんや、忙しい時は毎日炊くよ。今は様子を見て炊いてる。
  • 朝は何時頃に火を点けて、何時間くらい掛かるんですか?
  • まだ暗いうち、5時くらいやな。炊く時間は何時間と言えんのよ。薪の火かげん、気候の関係、季節に合わせた炊き上がりにしなあかん。

香りの良いヨモギ

  • ヨモギを摘むのは加子母では5月ですね?
  • 最初、産直で売り出す時、損してもいいで、でかい大福作ろうと思ってね。そしたらヨモギがよけ(沢山)いったわけよ(必要だった)。そんで北海道から買ったんだけど、匂いも薄いし、嫌だったわけ。ヨモギもやっぱりこの辺でないといかんね。
  • ヨモギも地元にこだわっているんですね。
  • そう、近所の人に頼んで摘んできてもらってね。ヨモギは5月やでね。
    えらかったー(大変だった)毎晩10時くらいまでヨモギのあく抜き。
    それを冷凍にしてくのよ。加子母の人はみんなそうしてるね。
  • ヨモギはどのくらい伸びたのがいいんですか?
  • 種類も有るけど、出たばっかりの柔らかいのだと、匂いがにすい(薄い)。
    20㎝位の長さでいいのよ。その下の葉っぱもいいし。誰か摘んでくれる人おらんやろうか?
  • 5月になるとグングン伸びてくるから私も摘んできます。
  • そうしてよ。
  • 私は千葉県の田舎で生まれ、家で餅ついたりしてました。
    ヨモギもそこいら辺に生えてましたが、ヨモギ餅を作って食べたという記憶はないですね。
  • やっぱりヨモギ餅はこの辺の郷土食なのかね。

餅米

  • 餅米にこだわりはありますか?
  • 地元の餅米も少し使ってるけど、ほとんど農協からの一等米使ってるね。
  • あんことヨモギの入った餅が出来たらその後は手で丸めるのですか?
  • そう、この手でね。昔はよう使った手やけど、今はそんな訳にはいかん。
    手も痛んでくるし、腱鞘炎にもなるしね。
  • 働き者の手ですね!

美味しいヨモギ大福に必要な5つの要素

  1. 薪でじっくり時間をかけて炊くあんこ
  2. 香りの良いヨモギ
  3. 上質な餅米
  4. 働き者の手
  5. 一番大切なのが家族のチームプレー
  6. 仕事に行く前に、5時から作業を手伝う長女の佐代子さん。

    己書を生かしてラベルを描いたり、弁当持ちでヨモギ摘みに行ってくれる次女の智恵子さん。

    一番背が高く、暮れの超繁忙期にオーストラリアから来て、高い所の蒸篭を任せられる、三女のゆかりさん。

    そして、40年近く休むこともなく、昔ながらの製法で作り続け、ヨモギ大福の味を守っている益朗さんと由美さん。

    平野屋家族の楽しくて、貴重な話を聞く事ができました。
    ありがとうございました。