全国の方々に愛される加子母の朴葉寿司
皆さんは朴葉寿司(ほおばずし)をご存知でしょうか。
朴の木(ほおのき)の葉に酢飯と具材をのせた郷土料理です。
朴の葉は殺菌効果があり酢飯も日持ちすることから、農業や林業が盛んな加子母では、手を汚さず食べられ農作業や山仕事のときに持っていくことができる食べ物として地域に根付いています。
今でも加子母では庭に朴の木が植えてあることも多く、初夏になると各家庭で朴葉寿司が作られます。
おばあちゃんがひ孫の端午の節句に作ってくれた朴葉寿司
私は子供の頃におばあちゃん達が朴葉寿司を作ってくれて食べていましたが、色味が地味で苦手な具材が入っていたこともあり、好きな具材だけを選んで食べていた記憶があります。
90代になったおばあちゃんに朴葉寿司の思い出を聞きました。
「新緑の季節になると朴葉寿司を作りたいなぁって思うよ。
私の場合、食べたいっていうか作りたいやなぁ。
色彩を考えて位置を考えたり、具を少しずつ変えたりして作るに。
具が多いのが美味しいんじゃなくて酢飯を楽しめるように余白を大事にして作るなぁ。
たくさん作って家族や近所の人に分けたりして食べるんや。
酢飯の味とか、具材とか家ごとに少しずつ違うのも面白いに。」
それぞれの家庭でみんなが工夫して調理してきたことによって今の美味しい朴葉寿司の形になったのだと作り手の歴史を感じました。
近年では朴葉が冷凍できるようになった事により、一年中おいしい朴葉寿司を楽しめるようになりました。
挽家の朴葉寿し工房を見学!
- こんにちは!今日はよろしくお願いいたします。
- よろしくお願いします。うちでは98歳のおばあちゃんも一緒に仕事しとるよ。
- お元気ですね!おばあちゃんは何の作業をされているんですか?
- 朴葉洗いが忙しいのよ!朴葉洗いはおばあちゃんの仕事だけど1番手間がかかるでね。
水の中に移して1日水に浸したり、大変なのよ。 - 朴葉寿司では朴葉が大切ですもんね!
- 1枚1枚見ながら洗ったり拭いたりするんや。表も裏も虫がついてないかとか確認しないかんのよ。
- 朴葉寿司の旬はいつですか?
- 冷凍ではない生の朴葉はゴールデンウィーク明け位からやね。お客さんたちもよく知っとってそのくらいになると新しい葉はいつ頃やー?なんて問い合わせがあるよ。
- 忙しいときはどのくらい作るんですか?
- 2升5合を10回くらい炊くね。1日で2斗から3斗作るね。
- 凄い量ですね。
- 新緑のシーズンは宅配便の発送時間までに作らないといかんから大変だね。
一生懸命急いで作るけど、宅配の人にとろくさいなぁ?とか言われながら(笑) - 夏は大忙しなんですね。
- コロナの影響でだいぶ減ったよ。イベントがないとね。
今はみんな耐えていかないかん時やね。 - どんな方からの注文が多いんですか?
- 加子母に住んでる人が他の地域の人に送るのに注文くれる時もあるけど、沖縄から北海道まで他所に住んどいでる人から注文あるよ。
- お客様はどこで加子母の朴葉寿司を知ったんですかね?
- ほとんど口コミでお客さんが注文してくださる。
産直で食べて美味しかったと言って、包み紙を持って「これを食べたい」と来てくれる人がいっぱい居るよ。
- 朴葉寿司の魅力って何だと思いますか?
- ご飯は酢飯やもんで若い人も食べやすいと思うけど。
かしこまった料理はテーブルについて食べないかんでね。どこでもかがんで(しゃがんで)食べれるからいいよね。 - 手軽さがいいですよね。
- 昔の人は知恵があったね。
朴葉は殺菌効果があるやら。朴葉に包んで、いろんな具材をのせて、箸も使わずに食べれる発想がすごいと思うよ。
家では新葉がでてから秋の祭りまで家族みんなで作っとったよ。
外で食べるのは最高よ。山の中で食べるのはおいしいよね。
- 家庭では桶に入れて重石を乗せて作る所も多いですよね?
- 押し寿司みたいなことやね。
- 家庭では数日食べられる保存食でもあったんですもんね。
- 昔は作ってすぐは絶対食べさせてもらえなかったのよ。
私たちも食べてみて、少し寝かしたほうがおいしいって話すのよ。特に夏は。2日目が1番おいしいと思う。 - じゃあ、発送してもらう場合は到着した時が食べ頃ですね!
- 具材がちょっとづつ違うんですね。
- 椎茸とかエリンギとか真ん中の具材がメインやね。中心のきのこから順番通りに盛り付けるのよ。
- お客さんに言われて印象残ってることありますか?
- お客さんがおいしいって言ってくれるもんで絶対おいしいと思って作ってるよ。
- お客様にそう言ってもらえるのが1番嬉しいですね。
- リピーターの方が多くついとってくれてほんとにありがたいなって思うよ。毎年注文してくれる人もおるし、何十年の付き合いがある人おるよ。
もうその人たちは友達みたいな感じで電話で人生相談聞いたりすることあるよ。まぁ顔は見たことないけどね(笑)
- 挽屋さんの朴葉寿司ファンがたくさんいらっしゃるんですね。
- うちは宿をやっていて夕食に朴葉寿司を出すもんで、泊まったお客さんがまた食べたいと注文してくれることもあるよ。お客さんて凄いね。時期を知っとって注文してくれるで。
- それだけ楽しみにしてくれているってことですよね。
- ありがたいさ。
- いつも美味しい朴葉寿司を作っていただいてありがとうございます。
朴葉寿司を販売する道の駅かしもへ
道の駅かしもではお店に入った正面に朴葉寿司が並べてあります。
夏になるといつも買いに来てくれる人もたくさんおり、新緑のシーズンが始まったら野菜と一緒に梱包して発送を頼まれたり、職場の方に配るために毎年まとめて注文したり、イベント出店のときに朴葉寿司を300、400パックとか持って行っても完売するそうです。
今回、加子母の朴葉寿司がたくさんの方に愛されている事がよく分かりました。
朴葉寿司を初夏に食べることを心待ちにしている方がたくさんいて、今年も多くの方に届けられ、美味しく食べられるんだろうなぁと思うと嬉しくなり、私も食べるのが楽しみになりました。
私は、挽屋さんの朴葉寿司を買って川原へと向かいました。
朴葉寿司を手に乗せ「1口目はどこから食べようかな?」と朴葉をめくりながら蕗をパクり。
こうやって川原や田んぼ、山の中で朴葉寿司を食べられてきたんだなぁ、と昔の加子母の人々の姿を思い浮かべました。
「2口目は鮭かな。」など次は・・・と考えているうちに1パック3つの朴葉寿司をペロりと平らげました。
子供の頃には食べられなかった蕗や紅生姜も今では朴葉寿司の大切なアクセントと感じるようになり大好きな具材になりました。
私は朴葉寿司を一から作ったことがありません。
綺麗に洗われた朴葉に、甘すぎない酢飯、丁寧に作られた何種類もの具材。
朴葉寿司はおにぎりのような手軽さでありながら、一つで様々な味を楽しむことができる素晴らしい郷土料理だと思います。
今回の取材で、食べる時の手軽さとは反対に、朴葉、酢飯、様々な具材の準備と調理の中にどれだけ多くの手間がかかっているかわかりました。
手間がかかる料理だからこそ、「何の具材を入れようか?」「誰に食べてもらおうか。」と話し、楽しみながら家族で作る文化が残っているのだと思います。
私も今年はおばあちゃんに習って作ってみようかな。