シクラメン生産農家の27年の想い
~~真綿色したシクラメンほど清しいものはない~~~
~~出会いの時の君のようです~~
~~うす紅色のシクラメンほど眩しいものはない~~
~~恋するときの君のようです~~
~~うす紫色のシクラメンほど淋しいものはない~~
~~後姿の君のようです~~
1975年頃、年末になると必ず街中に流れていた、布施明の「シクラメンのかほり」誰もが口ずさみ、花屋の店頭には溢れんばかりの色とりどりのシクラメンが置かれていた。皆はそれぞれにそれを手に取り、恋人のプレゼントやクリスマスの飾りにとシクラメンを買い求めた。シクラメンの発祥の地が東濃地方だと聞いた。
加子母も中津川市の北端にあたり、かろうじて東濃地方に入る。何故か誇らしく思えて、よく年末ギフトに使った。「私の住んでいる東濃が日本のシクラメンの生まれた所なのよ」と自慢の手紙を添えて。
「シクラメンのかほり」を口ずさむ人も少なくなり、知らない人も多くなったが、でもやっぱりシクラメンは冬の花の代表だ。27年前に初めて加子母でシクラメン作りを始め、試行錯誤しながら、ただ一軒シクラメン作りを続けている「ますだ農園」の三浦ちえ子さん(58)に話をきいた。
「ますだ農園」のシクラメンハウスのある場所は、加子母の小郷という地区。標高700mを越している。
冬はまず小郷から雪が降り始め、-10℃以下になる日も少なくない。シクラメン作りには過酷な条件です。
冬はまず小郷から雪が降り始め、-10℃以下になる日も少なくない。シクラメン作りには過酷な条件です。
- なぜシクラメン作りを加子母ではじめようと思われたのですか?
- お父さん(主人)は高校卒業して、ほんとはランをやりたかったのですが、メジャーでなかったもんで、トマトを始めたの。
でも、結婚して花がやりたいと言うもんで。それじゃ、1年で勝負が出来る花がいいということで、シクラメンにしたの。シクラメンは中津川の隣の恵那が発祥の地で、その頃は先生方が大勢みえた。主人が40歳くらいの時ね。 - ちえ子さんもやろうと思われたんですね。
- そう、お父さんがやるって決めたんでね。私たちも若かったし。
シクラメンを育てる為の始めの作業は?
- まず、どんな事をするんですか?
- シクラメンは種から芽だしするんだけど、とても難しいんです。だから、芽だしや、品種改良なんかは中津川にある専門の会社にお願いするのね。
10月に種蒔いて、芽が出るまで1ヶ月半くらい掛かるんです。芽がこれ位(約1㎝)出たのをここに持ってきて、ポットに移し替えて次の年の出荷になります。 - 今は新しい品種がどんどん出てますね?
- うちでは品種改良とかはしないんですよ。うちは生産農家で育苗会社ではないので。
新しい品種は、パテント(特許権)といって、それなりにお金を出さないと、その品種は作れないということになってます。ブドウなんかと一緒やね。
生産者として軌道に乗せるまで
- シクラメン生産農家として27年間続けるってことは、大変な事もたくさんありますよね?
- あります、あります。
最初はハウスも建てんなんし(建てなくてはいけないし)、採算べースに乗せるまで相当かかったの。
トマトをやっている時は組合があって、後押ししてくれたり、協力もあったりしますが、シクラメンは個人でやってます。だから、自分で売り込んで、市場を開拓していくしかないのよね。 - このハウスはどの位の広さがあるんですか?
- 一反弱(270坪)位で、かたまり(棟)でいくと、4棟あるの。今このハウスにある花は11月に出すぶんです。一番大きい2反(600坪)のハウスが12月出しです。
- これだけの大きいハウスを温めるのは大変ですね。
- そうなんです。今年は原油高で、暖房の為の燃料がものすごく高騰してるでしょ。それに、今年は病気が出たりで大変です。
うれしかった事 人との出会い
- 長くやってきて良かった事もたくさんあったと思いますが、心に残っている 事はありますか?
- いい方との出会いがあったんです。
その人が「ますだ農園」を育ててくれようと思ったんだわね。その人には恩があると思うよ。市場の担当者の方で、「良い花育てているで、頑張ってくれ」って言って、その頃では高い値段を付けてくださったり、いい仲買人さんを紹介してくれたり。
新人の時に、そんないい人との出会いがあったのよ。お蔭でなんとかやってこれたんやね。 - 嬉しいですよね、他にもありますか?
- 品評会で、農林水産大臣賞という大きな賞を頂いた時ね。
それと、鉢を送って、届いたお客さんから「素敵なお花、ありがとうございました」というハガキが届いたりするとうれしいね。こういう時代ですからね。 - それは本当に嬉しいですよね。
それに、農林水産大臣賞だけでなく、農産園芸局長賞、全国鉢花共進会岐阜県知事賞、福花園暁会共進会フラワーグランプリなど、まだ他にもいろいろな賞を受賞されているんですね。 - ありがたいことやね。
これからやりたい事
- シクラメン生産農家として、これからこうしていきたいという事はありますか?
- 私も主人も、もう歳とってきたからね。
でも、27年間やってこれたのは、私達はこの仕事が好きだったんやね。
「お父さんがやめると言ったら、私もやめる」と笑顔で話すちえ子さんの後ろに、ご主人の三浦綱彦さん(66)のシクラメンに向ける真剣なまなざしがありました。
これからも、色々な問題に直面することがあっても、二人で乗り越え、加子母のシクラメン生産農家「ますだ農園」を続けていかれる事と思います。
冬の玄関を飾るシクラメン(フェアリーピコ)