誰でも純粋に音を楽しめる場所

7月25日の昼下がり、隣町の付知にあるコミュニティホール「アートピア付知」まで、夫婦で出かけました。

加子母在住の古楽器奏者・渡辺敏晴さん(愛称ハルさん)の
【小さなチェンバロコンサート~生きている・この星で】を鑑賞に行くためです。

決して私たちがバロック音楽に精通しているわけではないのですが、ハルさんのコンサートは誰でも受け入れてくれるので安心して何度か行かせてもらっています。

今回隣の熊谷榧ギャラリーではハルさんの奥さん画家・本間希代子さんの個展
【音楽と物語のある絵】(10/31までの土日祝日)も開かれていて、そちらも鑑賞したくて
開始時間より30分ほど早めに到着しました。

駐車場に着くと同時に隣に入って来たのが本間さん母娘が乗った車でした。
本間さんが受付カウンターに入って、ハルさんのCDや詩集、手作りオカリナなどのグッズを手際よく並べる傍らで娘ちゃんがお手伝いして、微笑ましい光景でした。
↓コンサート前にイタリアンチェンバロと一緒に家族写真を撮らせてもらいました。

こちらのオカリナはハルさんが粘土から成形して七輪で焼き上げ、仕上げに本間さんが絵付けをしている唯一無二の作品です。
手のひらに収まるペンダントサイズ。小鳥のような音色で、私も愛用しています。
カシモールでも販売されていますよ!!

今回の会場はステージのあるホールではなく、エントランスロビーでの開催でした。
閉じられたホールよりも開放的な吹き抜け天井の空間で、告知案内にも書かれていた通り、小さなお子さんも大歓迎という、ゆったりとした雰囲気でした。

私の前席にも未就学のお子さんを3人連れたファミリーが座っていました。
途中眠くなってお母さんに抱っこされたり、座っていられなくなって退席することもしばしばでした。この会場なら出入りしやすく誰でも気兼ねなく音楽を楽しめる配慮がうれしいですね。

受付で配られたプログラムには3項目しか載っていません。

これはハルさんがお客さんの様子を見てその場で選曲するので、
あえて決めていないとのこと。奏者の独演ではなくて、その場の雰囲気に共鳴した演奏が聴けるなんてライブの醍醐味です、さすが!!

【第一部】のオープニングは
“おかあさん””なぁ~に?””おかあさんていい匂い”「童謡おかあさん」から。
ハルさんのおおらかで包み込むような歌声に繊細なチェンバロの音色が寄り添って。
前席のファミリーを眺めながら聴こえて来る音楽にきゅんとしてしまいました。

それからチェンバロの歴史に触れ1300年代の最古の設計図があることや
現存するチェンバロで1460年代のものがあると聞き、
音楽室に飾られてたモジャモジャヘアーのバッハとか?が演奏していた楽器かと思うと益々崇高な音色に聴こえます。

そして何よりこんな希少で緻密な楽器を自作されているハルさん、同じ地球人とは思えません(笑)
なのにステージも設けず同じフロアの至近距離で演奏してもらえる贅沢さ。
加子母に住んでいて幸せなことの一つです。

イギリスのエリザベス女王1世時代の民謡から、日本民謡の竹田の子守歌、与論小唄までと幅広いジャンルの歌と演奏が繰り広げられ、合間のMCも子守歌のように穏やかな口調でハルさんの創り出す音の世界に惹き込まれました。

【第二部】では挿絵を本間さんが描かれた詩集「カマキリの夏」を子どもチェンバロという小さなチェンバロで演奏されました。

その後大きなチェンバロに戻ってバロック音楽が演奏されました。
印象的だったのはイギリスのウェストミンスター寺院のオルガニストだったヘンリー・バーゼル作”グラウンド”2曲を演奏されて
「キリスト教では地に埋められたら体は若返り復活すると言う
思想・想像力を持っていたんですね。そのため死を自然と受け入れ恐れなかったのです。
日本人も八百万の神などを信じていたけれど、現代人はいつからか無神論者になってしまい
死を必要以上に恐れるようになってしまったのでしょうか。。。」と
ハルさんが死生観を語られました。

昔から疫病流行はあったし、現代よりずっと貧しい暮らしでも
豊かな思想に支えられ日々懸命に生きられていたんだろうなぁ。

今は生きられるのは”当たり前”になってしまって、足りないモノに心が奪われやすくて
不安が増えているのかも。老後の年金もらえるんかなーとか。
生きている今ここを充分に味わいもせずに。。。そんなことに気づかされたお話でした。

ハルさんはご実家がお寺で、お盆やお正月の忙しない環境が苦手でずっと信心が持てなかったそうです。そんな自分が信仰音楽を演奏して良いのか葛藤されていたと。
それが今は仏様も神様もひとつであると思えるようになり、
“平和で争いのない世界でありますように”と毎日お祈りされるようになったそうです。
だから今は音楽とラクに向き合えるようになったとおっしゃっていました。
ハルさんの音楽は祈りのようで心の琴線に触れるものがあります。

時折窓からの風が吹き抜けて、ハルさんの優しい声とチェンバロの音色に包まれる心地よさ「私は今生きている」と心から豊かになれた時間でした。

プログラムは決めていないのに自然な流れで最後はコンサートテーマ
【生きている・この星で】にしっかりたどり着いていました。

本当にすばらしいコンサートをありがとうございました。

終演後は、誰でもチェンバロを弾かせてもらえるのもハルさんコンサートのうれしいお楽しみ。
チェンバロの弦を一番美しい音色にはじいてくれるカラスの羽を使用した爪も見ることが出来ます。

チェンバロに施された本間さんのイラストも見とれてしまいます。
家族の誕生花が描かれてるそうです。

ハルさんのコンサートは全国で不定期に開催されていますので、
ぜひアトリエ玉手箱のHPでチェックしてみてください。

そしてチェンバロを自分で製作してみたい!!という創作意欲に溢れた方は、
30回シリーズで子供チェンバロの作り方が動画でアップされていますので、
youtube「チェンバリストの山暮らし」もご覧ください。

Written by Nanoka