田んぼに水を張り始めた頃。朴葉寿司のシーズは始まります。
朴葉寿司とは、朴の葉に酢飯をのせ、その上にいろいろな具をのせた岐阜県の郷土料理です。
元々は農業・林業を生業とする家庭が多く、昼食を畑や山で取ることが多くありました。その為、携帯性が良く朴の葉と酢飯の殺菌効果で日持ちし、また近隣との作業の助け合いでまかないにも便利な朴葉寿司が広がったそうです。
今回は朴葉寿司を販売しているお店の一つ「かねいま 食品」のかなこさんとやすみつさんにお話しを伺いました
加子母の銀座
- 私がかねいま食品に来たときは昭和39年(1964年)だったけんど、元々八百屋っていうか魚屋さんっていうか。田舎やもんでよ、なんでも売ってたよ。
- スーパーのような感じですか?
- スーパーともちょっと違うかな。うちがあるこの通りは、家具屋、電気屋、車屋、お寿司屋、酒屋、饅頭屋、茶碗屋、服屋、ガス屋…ずーっと商売屋ばっかりあったもんで、万賀銀座と呼ばれてた。
- 寿司屋が切手売ったり、ガス屋でおぼん売っていたり何でも揃った。農協もあって銀行もあった。この通りで全部で間に合ったよ。
- 銀座!加子母にも銀座があったんですね!
- まぁ今みたいな銀座ともまた違うね。
昔は今みたいに 売り物をパックにはしてないしね。佃煮でもお菓子も分け売り。
今だと冷蔵庫入れんや、なんじゃかんじゃ難しい事言うけど、秋刀魚でも鯖でもよ、店の外で箱の上にガラスをのせてあった。あれにはびっくりした。それがまたよー売れたんやって。 - お客さんはどうやって持って帰ったんですか?
- そやもんで新聞紙よ。魚をそのまま新聞で包む。
ほいでね、昔の人は竹で編んだ籠を背中に背負ってよ。そいつにいっぱい入れて。面白いくらい売れたよ。 - とてもエコですね!
今でもかねいまさんは八百屋だったり魚屋ですか? - 今は2割八百屋さん、8割が惣菜・弁当屋さんやな。
- お惣菜は色々作るけど、冬場になると「たつくり」がよく出るよ。
- タツクリ?
- 「たつくり」はおせちとかに入ってる、小イワシの甘露煮みたいなやつ。
JR名古屋のマリオットにも納めさせてもらっとる。 - すごい!
- あれは本当によく売れるに。
かねいまの朴葉寿司
- 改めて朴葉寿司について教えてください。
- 昔から伝わる郷土料理の一つ。まぁ、家庭の味やね。
加子母は山が多いもんで、夏場にお弁当持って山仕事した。おにぎりだと腐っちゃうから、抗菌作用のある葉っぱに包んで、暑い時期でも持ってて腐らないってことで、酢飯やし、昔の人の知恵やね。 - 食べるときに、箸を使っていると正式な食べ方じゃないと言われたことがあります(笑)
ハンバーガーで例えると朴の葉が包み紙で、手を汚さずガブりと食べれるのがいいですね。 - 食べたら葉っぱやもんでそのまま山に返せれるし。
- 今のファーストフードのような感覚で、昔は買って仕事に行く方もいましたか?
- 買いに行くのは最近やな。平成くらいからやない?どうや?
- そーや。それまでは朴葉寿司は家庭で作るもんやったけど、インターネットが普及しだして知られるようになった。
平成に入ってから道の駅も増えはじめたもんで、そこから販売がはじまったんじゃないかな。 - 買ってきた方が世話ないで、各家庭であんまり作らんようになった。
- かねいまさんが販売をはじめたきっかけは何かありましたか?
- お客さんに「ここの惣菜が美味しいから朴葉寿司も出したらどう?」って言われたのがきっかけ。
家庭の朴葉寿司の味が出せたもんでそれがヒットした。 - 朴葉寿司にのせる具だけ買いに行く人もいると聞きました。
- よそはわからんけど、うちはほぼほぼ手作り。
もちろん鮭とかも買ってくるものもあるけど味付けは、ここやもんで。
- うちの味付けは昔からの味付けやもんで、それが気に入ってくれている人がおって、ここのやつがええって 毎年使ってくれるな。
他の人にもここがええよぉって紹介してくれるの。それでけっこう広がっていくでありがたいに。 - 朴葉寿司にのせるものの組み合わせは昔から変わっていないですか?
- 昔から変わっていないよ。
- シーチキンでやる人も出てきたけど、うちはずっとサバ。
このサバなんかは、気長にやっとかかって煮る。 - ちなみにこれは時間はどのくらいですか?
- 水分が飛ぶまでやもんで、
- 2~3時間は煮るね。火かけといてときたま混ぜて、他のこともしながら。
- たまに焦がす(笑)
- ささっと煮るだけでは生臭いね。やもんで小さい火で気長にまぜながら
- このきゃらぶきも?
- これもやっと煮る。昔はね切って塩でもんでもー大変やった。ゴミもでるし。
今は切っといてさっと湯がいて一晩水につけとく。ほんでアク抜きしてから分量の醤油とかいろいろ入れて小さい火で気長に気長にやっとかかって。 - 手間かかってますよね
- 手間かかっとる
- やっぱり口の肥えとる人は、既製品か手作りかってわかる
- だいたいわかるら
うまかったよ言ってもらえると嬉しいに
- 野望などありますか?
- 野望は、うまいものを全国に広める!
うまいもの、「田舎ならでは」のものを、世にもうちょっと知らせる。
八百屋なんて、安い所はいくらでもあるに。ほんなのは勝てん。だったら朴葉寿司とか、特殊なものを世に広める。 - 朴葉寿司の他にも特殊なものはありますか?
- いっぱいあるけど、今回カシモールにも出している「粕練り」とか
- 粕練り(かすねり)?
- 家庭でとれた野菜と酒粕を合わせて作る郷土料理。
- どんな味なんでしょう…?
- ま、一言で言うとお酒の味。お酒を飲みながらつまみにする人、ご飯のお供にする人、いろいろあるよ。
- どんなお酒にあいますか?
- 特に日本酒に合う。お酒を飲みながらお酒を食べるみたいな感じ。
- 酔っぱらっちゃいそうな食べ物ですね!
- うまいのに知られてないもんでこういう「田舎ならでは」の食べ物を知って欲しい。
イベントの時にお弁当に少し入れてたら、「これなんや?」って。都会の人は知れへんもんで、うまかったわ~って言ってもらったときは嬉しかった。 - これも家庭料理だけど、うちのは夏場はミョウガ入れたり、ピーマン入れたり。
他にも切りずるめ、数の子いろいろ入っとるよ。 - 普通の家はそんなに入れんに。是非うちの粕練りを食べてみて欲しい。
- かな子さんの野望はありますか?
- 私は自分で味見してうまいものを作りたい。
ただ年になってきたでさほど動けんにー。だで息子にもやってもらうんだけど、なるだけ既製品を使わんように手作りでやりたい。それだけやね
お客さんにうまかったよって言ってもらえると嬉しいに。だでおいしいものつくりたい。
全国までいかんでいいで(笑)