薪の炎が、人の心に幸せの火を灯す

山へ入る

春先の林道は全く走りづらい。
土が凍っては溶ける事を繰り返しているため、土の中にあった大きな石が表に出てきて、道にゴロゴロ転がっている。わだちがへこみ、道の真ん中がせり上がっている。
そんな山道を軽トラックが登って行く。

カズマルさんの仕事の現場を拝見することと、話を聞くために、必死の思いで後に付いた。
登ること40分。澄んだ空気。その向こうに雪を被った真っ白な御嶽山が見える。
カズマルさんの薪ストーブ用の薪のナラ材は、そんな山の中で伐採される。

「ここいら辺でお茶にするか」

カズマルさんの声がかかった。

  • ここは加子母のどの辺になるんですか?
  • 位置としては、加子母の南東かな。尾城山って言って、標高1000m程で、山の下の方はヒノキが植林されてたけど、ここまで来ると自然の山の姿が残っていて、だいぶナラの木が増えてくる。携帯もここまでは届かんから、なにかあっても誰も助けに来てくれんし、呼びよさないもんで(呼べないので)、奥さんとは一緒に来るようにしてる。

木を倒す

  • このミズナラの大木を切るんですか?
  • そう。これなんか、100年位経ってるかな。平均すると、7、80年のものが多いね。こっちの木と、倒す方の木にワイヤーを張る。これは、がっちゃといって、ワイヤーをしっかり張って、倒す方向を定める道具や。少し切っては、切口にくさびを入れて、がっちゃでワイヤーの張りを調節して、ゆっくり進めんと危ないからな。

    倒すで、離れててよ。

空気を割ってチェーンソーの音が響く。
コーン、コーンというくさびを打つ音が続く。

何回かそれを繰り返した後、ばりっ、ばりっ、ばりっ、ドーンと地面を打つ音がして、ミズナラの大木が倒れた。

  • 山の上ではどこまで作業されるんですか?
  • 切り倒した木を、ストーブに入る長さに切りそろえて、丸太にして持って帰る。そのほうが乾燥も速いしな。一日に3往復もすることあるよ。
  • えーー、この山道を3往復もするんですか?
  • するよ。

山を降りて、後日カズマルさんを訪ねる。

薪にする

  • 凄い量の丸太ですが、何トン位あるんですか?
  • 7、8トンかな。これで、10往復位したな。
  • これが薪割りの機械ですか?
  • そう。10年位使ってるなー。
  • どのくらい乾燥させたら、薪として使えるようになりますか?
  • 2年位かな。大きい節があると、機械が動かんようになるもんで、節を避けるやら。そうすると、細かい材が出来る。それは速く乾燥するから1年で大丈夫や。
    これ位大きい薪だと、ストーブにくべて、2時間は燃えてる。火持ちがいい。乾かす場所は軒先でもいいよ。私は、昔、牛小屋だったここに積んでるけど。

火を楽しむ

  • カズマルさんも薪ストーブを使ってみえますが、何年位になりますか?
  • 20年以上になるよ。
  • 薪ストーブのどんなところが良いですか?
  • 優しい幸せを感じる温かみがいいね。石油ストーブやエアコンでは感じられない優しいぬくとみがある。薪ストーブを使うと、もう他の暖房器具は使えんよ。
  • その為の薪作りは、これからも続きますね。
  • 薪作りは老後の楽しみと生きがいになってるな。手間はかかる、体使うから健康に繋がる。
    この前も、これから家を建てるという若夫婦が薪を買ってくれて、「家が完成したら、まず、この薪をストーブで一番に燃やそうと思う。それまでこの薪を見てる」と言って、持って行ってくれた。
    「今は、なかなか山の手入れも出来んようになってるから、山ごと買って、薪作りからやってみたらどうや、楽しいよ」って言っておいた。
  • えっーー、山ごと!
  • それにこれからの季節、キャンプとかするでしょう。最近も、「孫とキャンプファイヤーやってとても楽しかった」っていうお祖父さんの声を聞かせてもらったりして。うれしかったなー。
  • 薪作りもそうですが、人生楽しんでますね。
  • そうそう、皆に薪の火のぬくとみを伝えたくて、楽しんでやってるよ。